実務Q&A 平成26年3月号
『成績を理由に減額可能か~高度人材の役員並み報酬』
Q.会社の業績アップのため他社で辣腕をふるっていたベテランの営業職を中途採用しましたが、思うように営業成績が上がりません。この従業員には会社の重要な会議にも参加させ、報酬も役員並みですが、業績不振を理由に報酬の額を引き下げると、問題が生じるでしょうか。
A.労働者性があると不可
労働契約は労働者の「労務の提供」と、使用者の「賃金の支払い」が根幹にあることから、賃金は労働契約上最も重要な内容の一つで、使用者の一方的な額の引き下げはできないと解されています(山川隆一他「成果主義人事と労働法」)。労働者の同意があっても就業規則の水準を下回ることはできないため、減額の基準を就業規則等で明確に定め、労働者が理解できる形にしておくことが求められます。
一方、取締役など役員が会社と結ぶ契約は、一般的に委任契約で労働契約ではなく、報酬の扱いについても労働基準法の適用対象となりません。
しかし、役員相当の待遇で仮に「常務」といった肩書を持っていたとしても、使用者との間で指揮命令関係が存在するなど実質的に労働者性があると報酬も労働者の賃金と同様にみなされ、一方的な減額を認めなかった裁判例があります(津軽三年味噌販売事件、東京地判昭61.1.27など)。
『業務上疾病になるのか ~個人的性格でうつ病』
Q.ややエキセントリックな性格で同僚との折り合いが悪かった社員が、うつ病で休業してしまいました。本人は、業務上で受けたパワハラによる精神障害で、労災だと主張しています。当社としては、個人の性格によるもので労災ではないと考えているのですが、間違いでしょうか。
A.適応状況を見て性格傾向判断
心理的負荷による精神障害の労災認定は、平成23年に「判断指針」から「認定基準」になり、具体的な例示等が増えて判断の迅速化につながりました。
労災と認められるのは、業務に関連した極度の心理的負荷や長時間労働といった「特別な出来事」や、業務上複数の出来事が重なり心理的負荷が強まった場合で、業務以外の心理的不可や個体側要因があると、労災にならない可能性があります。個体側要因については、既往症やアルコール等の依存
状況の他、性格傾向もあります。
お尋ねのケースにも当てはまりそうですが、性格傾向は判断指針の当時から「生活史を通じて社会適応状況に特別の問題がなければ、個体的要因として考慮する必要はない」とされています。性格が偏っているというだけで個体的要因とするのは少し性急で、本人の学校や職場におけるこれまでの適応状況も考慮して判断するものとされています。
提供:労働新聞社