『成績を理由に減額可能か~高度人材の役員並み報酬』
Q.会社の業績アップのため他社で辣腕をふるっていたベテランの営業職を中途採用しましたが、思うように営業成績が上がりません。この従業員には会社の重要な会議にも参加させ、報酬も役員並みですが、業績不振を理由に報酬の額を引き下げると、問題が生じるでしょうか。
A.労働者性があると不可
労働契約は労働者の「労務の提供」と、使用者の「賃金の支払い」が根幹にあることから、賃金は労働契約上最も重要な内容の一つで、使用者の一方的な額の引き下げはできないと解されています(山川隆一他「成果主義人事と労働法」)。労働者の同意があっても就業規則の水準を下回ることはできないため、減額の基準を就業規則等で明確に定め、労働者が理解できる形にしておくことが求められます。
一方、取締役など役員が会社と結ぶ契約は、一般的に委任契約で労働契約ではなく、報酬の扱いについても労働基準法の適用対象となりません。
しかし、役員相当の待遇で仮に「常務」といった肩書を持っていたとしても、使用者との間で指揮命令関係が存在するなど実質的に労働者性があると報酬も労働者の賃金と同様にみなされ、一方的な減額を認めなかった裁判例があります(津軽三年味噌販売事件、東京地判昭61.1.27など)。
『業務上疾病になるのか ~個人的性格でうつ病』
Q.ややエキセントリックな性格で同僚との折り合いが悪かった社員が、うつ病で休業してしまいました。本人は、業務上で受けたパワハラによる精神障害で、労災だと主張しています。当社としては、個人の性格によるもので労災ではないと考えているのですが、間違いでしょうか。
A.適応状況を見て性格傾向判断
心理的負荷による精神障害の労災認定は、平成23年に「判断指針」から「認定基準」になり、具体的な例示等が増えて判断の迅速化につながりました。
労災と認められるのは、業務に関連した極度の心理的負荷や長時間労働といった「特別な出来事」や、業務上複数の出来事が重なり心理的負荷が強まった場合で、業務以外の心理的不可や個体側要因があると、労災にならない可能性があります。個体側要因については、既往症やアルコール等の依存
状況の他、性格傾向もあります。
お尋ねのケースにも当てはまりそうですが、性格傾向は判断指針の当時から「生活史を通じて社会適応状況に特別の問題がなければ、個体的要因として考慮する必要はない」とされています。性格が偏っているというだけで個体的要因とするのは少し性急で、本人の学校や職場におけるこれまでの適応状況も考慮して判断するものとされています。
提供:労働新聞社
『帰途のセクハラは通勤災害? ~飲食店で打ち合わせ中「就業場所」といえるか』
Q.女性従業員から「上司から事務打ち合わせという名目で飲食店に誘われ、セクハラを受けた」と相談がありました。セクハラが問題化したのは、当日の帰途、女性従業員が駅で転倒して負傷し、詳しい事情を問い質したからです。仮に社内でセクハラと認定した場合、通勤災害の請求をすべきなのでしょうか。
A.職場の定義異なる
通勤経路をたどっている最中に事故に遭遇しても、通勤災害と認められるとは限りません。対象となるのは、就業に関する移動中の事故です。「就業に関する」とは、「移動行為が業務に就くため、または業務を終えたことにより行われるものであることを必要とする趣旨である」と解説されています。
打ち合わせの名目で上司・部下らが飲食店に立ち寄るのは日常茶飯事のことです。一般には業務には含まれず、飲食店が就業の場所とは認められません。お尋ねのケースでは、業務終了後の事務打ち合わせについて、労働時間(賃金の支払対象)とする取扱いもしていないはずです。
住居と就業の場所の間の往復に該当しなければ、そもそも通勤災害の定義に該当しません。
社内ではセクハラとみなして処分し、本人が裁判で争い、最終的にセクハラと認定されたとします。セクハラは、すなわち業務上の出来事ですから、飲食店が「就業の場所」となり、通勤災害と主張できるのでしょうか。
セクハラとは「職場において行われる性的な言動」を指します。ここでいう職場とは「事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所を指し、取引先と打ち合わせをするための飲食店等であっても、業務を遂行する場所であればこれに該当する」(厚生労働省「セクハラ指針」平18.10.11)と定義されています。
解釈例規では「勤務時間外の宴会等であっても、事実上職務の延長と考えられるものは『職場』に該当するが、職務との関連性等を考慮して個別に判断を行う」としています。
セクハラでいう「職場」と通勤災害上の「就業の場所」は別々に定義されていて、自動的に通勤災害の保護対象になるとは限りません。
『すぐ辞める社員多い ~派遣先がやるべきことは』
Q.当社では複数の派遣会社から社員の派遣を受けていますが、ある会社の社員が入社数日で辞めてしまうという事態が続いています。派遣社員にも制服棟を支給するため、早期に退職されると経費もムダになる等いろいろ困ります。派遣先と派遣元でそれぞれどう対処すべきなのでしょうか。
A.連携をとって問題解決
派遣労働者の労働条件は、派遣元の就業規則や労働契約で決定されるというのが基本的な考え方です。制服代等の扱いについても派遣元が就業規則に定めますので、弁償を求めるにしても、派遣元が就業規則等に基づき給与等から控除した代金を派遣先に支払うといった段階を踏むことになります。
派遣労働者の退職が相次ぐ背景には、派遣元が交付する就業条件明示書と派遣先の実際の就業条件との乖離、派遣先の職場環境のお問題等が考えられます。派遣先にも派遣元同様に苦情の申し出を受け付ける担当者を置き、連携して問題解決に当たることを求める「派遣先が講ずべき措置に関する指針(平11.11.17労働省告示)」があります。派遣元とよく話し合い、必要なら明示書の修正を求め、同時に貴社の職場が派遣労働者にとって不当に働きにくくなっていないか確認して、根本的な解決を図る必要があるでしょう。
提供:労働新聞社
『非嫡出子も年金は同額? ~遺産相続との相違点』
Q.先日、結婚していない男女の間に生まれた非嫡出子の遺産相続が嫡出子の半分であるのは違憲と判断され、民法が改正されることとなったようですが、遺族厚生年金ではそのような議論を聞いたことがありません。遺産相続と年金の遺族給付とでは、どういった違いがあるのでしょうか。
A.両者同等に生活を保障
年金は、受給資格を満たした人固有の権利に基づいて支給されるもので、死亡すると権利は消滅します。遺族年金も死亡した者の受給権を財産として相続するのではなく、その人に生計を維持されていた者の生活を保障する目的で、遺族が固有に取得する権利です。
こうした制度趣旨の違いから、子が遺族給付を受けるには死亡した被保険者に生計を維持されていたことが要件で、もとより嫡出・非嫡出は関係ありません。嫡出子と非嫡出子がいる場合も両者に給付金額の差はなく、等分して支給されます。いずれの子も、生計維持関係がなければ対象外で、成人や既婚の子は「自立した」とみなされて受給件はなくなります。
また、これは相続とも共通しますが、実子と養子にも差はありません。ただし、死亡した被保険者の再婚相手の子(いわゆる連れ子)は、当該被保険者と養子縁組をしていることが必要です。
『異動せずに退職すると? ~基本手当どう受けられる』
Q.今の会社に入社して1年ほどになりますが、突然県内の事業所の閉鎖が決まりました。解雇はせず、全員異動になるそうですが、自宅から最も近い東京の本社は通勤に片道3時間かかります。異動の辞令に応じるか、会社を辞めて地元で仕事を探すか迷っていますが、仮に依願退職した場合、失業手当の額は解雇の場合よりかなり少なくなるのでしょうか。
A.通勤困難は正当な理由
一般的に自己都合退職者は基本手当の支給が3ヵ月程度制限されますが、正当な理由による自己都合退職と認められれば、給付制限なく基本手当が受け取れるようになります。通勤が困難になったこともこれに該当し、厚生労働省の判断基準では通勤時間が往復で概ね4時間以上としています。これらに該当する人は、「特定理由離職者」として特定受給資格者とほぼ同じ給付日数の基本手当が支給されます。
ただ、特定理由離職者が給付日数で優遇措置を受けられるのは、来年3月31日までの予定です。現在審議が進められており、措置が継続する可能性もありますが、退職月によって受け取れる手当の額が変わってくる場合がありますので、政策の動向には注意しておいたほうが良いでしょう。
提供:労働新聞社
『請負にマニュアル不可? ~派遣とみなされるか』
Q.総合病院で、清掃業務を専門の業者に請け負ってもらっています。衛生管理が重要なので、清掃の作業手順には従来から細かいマニュアルがあるのですが、これを請負先の清掃員に提示すると発注者が直接指示を出していると見なされ、労働者派遣事業となってしまうのでしょうか。
A.手順の指示は差し支えない
労働者派遣事業と請負事業との区分に関する基準については、今年7月に厚生労働省から「疑義応答集(第2集)」が出されました。これには、請負で業務を発注した事業主が直接指示を出しても、必ずしも違法とならない例も挙げられており、その中に「業務手順の指示」があります。学校給食の調理を例にとり「学校給食衛生管理基準」による「調理業務指示書」が示されたとしても、献立ごとに配置する労働者の数や作業の割付を請負事業者が行う限り、ただちに労働者派遣事業と判断されることはない、という説明がなされています。
ご質問のケースについて同様に考えると、発注事業主が作成したマニュアルでも、具体的な人員配置や時間配分を請負事業主が行っていれば問題はないと考えられます。
『両親で取れば延長可? ~育休プラス適用されるか』
Q.妻が産後休業に引き続き育児休業に入っています。両親共に育児休業を取得すると、子供が1歳2ヵ月になるまで休業ができると聞きましたが、私が来月から妻と一緒に育児休業を取得し、子供が1歳になって私のみ職場に復帰した場合、妻は2ヵ月休業を延長できるのでしょうか。
A.先に休業の親は対象外
両親共に育児休業を取得すると、子供が1歳2ヵ月になるまで休業できる「パパ・ママ育休プラス制度」は平成22年度から始まっていますが、取得の仕方によって延長が可能かどうか変わってきます。
母親が休業に入った後で父親が育児休業を取得した場合、母親は休業の延長ができません。配偶者が育児休業を取得する際、本人が休業を開始した日がその配偶者の休業開始予定日よりも前の場合は、この制度が原則適用されないためです。
子供が1歳2ヵ月になるまで延長したい場合は、子供が1歳に達した段階で先に休業を取得した母親が育児休業を終了し、後から取得した父親が引き続き2ヵ月育児休業を続ける方法があります。延長ができる場合とそうでない場合については、通達(平21.12.28雇児発2号)に具体的な例が挙げられています。
提供:労働新聞社
『海外でケガ、給付は? ~家族も療養費の対象か』
Q.連休を利用して、家族で海外旅行を計画している従業員がいます。仮に旅先でケガをした場合、家族も療養費の対象になると考えて良いでしょうか。
A.必ず7割戻るわけではない
健康保険の被保険者や被扶養者が業務外の事由により病気やケガをしたときは、厚生労働大臣の指定を受けた病院や診療所などの保険医療機関に保険証を提出し、一部負担金を支払うことで治療を受けることができます。
海外でケガをして治療費全額を立替払いしたときは、後で「療養費」として費用の一部を申請することができます。被保険者だけでなく被扶養者にもこれが準用されます。
家族が保険診療を受けた場合、自己負担額は、小学校入学以後70歳未満までは原則3割です。ただし、海外で病院にかかったときに、療養費として治療費の7割が必ず戻ってくるわけではありません。日本と海外では、診療費用も異なるのが一般的でしょう。比較して低額な方の総費用で療養費を算出します。保険者は、保険診療を受けた場合を基準に計算した額から自己負担額を差し引いた額を払い戻します。日本で同じ治療を受けた場合の治療費が少なければ、その7割しか支給されません。
『パートを不利益扱い? ~就業規則改正に異議』
Q.就業規則改正の際、「パートの過半数代表者」の意見を聴取する手続きが採られました。ベテランの私が代表として一部の修正を求めたところ、後で上司から「出過ぎた行為」と叱責を受けました。仮に次年の昇給等で不利益な査定を受けても、文句を言えないのでしょうか。
A.法ではなく指針で禁止
就業規則の変更に際し、使用者は過半数労働組合(ないときは過半数代表者)の意見を聴取する必要があります(労働基準法第90条)。実務的に言えば、過半数代表者は正社員の中から選出されるのが一般的です。労働基準法に基づく「過半数代表者」については、労働基準法施行規則で「過半数代表者になろうとしたこと、過半数代表者として正当な行為をしたことを理由」とする不利益取扱いを禁じています。
一方、パートの労働条件に関わる事項については、前記の全労働者の代表のほか、「短時間労働者の過半数代表者」の意見を聴く努力が課されています(パートタイム労働法第7条)。こちらは、「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する措置等についての指針」の中で、「過半数代表者を対象とする不利益取扱いの禁止」を規定しています。
提供:労働新聞社